やさしい日本語

 やさしい日本語と聞いて、どのような日本語を思い浮かべますか? そもそも「やさしい」とはどういうことなのでしょう?

 日本語を母語としない人などとのコミュニケーションについて学ぶ「あきた やさしい日本語キャラバン」が1月21日、能代市で行われました。秋田県国際交流協会が各地で継続的に開いている講座です。およそ30人が参加し、グループワークを交えながら「やさしさ」や「コミュニケーション」について考えました。(能代会場は秋田県国際交流協会が主催、能代市が共催しました)

やさしさと「こども扱い」は違う

 参加者はまず、次のような再現映像を視聴しました。

日本語を母語としない男性が一人、とある市役所を訪れました。パートナーが妊娠したので「母子手帳」をもらうためです。

窓口で「母子手帳をもらいに来ました」と伝えたところ、職員が少し困った表情になりました。母子手帳は妊婦本人が受け取ることになっており、本人以外が受け取るには「委任状」が必要なのです。

そのことを、日本語を母語としない男性にどう伝えたらよいのか――。職員は悩みます。

「奥さんは、いらっしゃいますか?」
「ワイフ トゥギャザー?」
「ママ、いる?」
いろいろと言い方を変えてみましたが男性には伝わらず、互いに困惑してしまいます――。

 「男性にとって、どこが難しかったと思いますか?」。講師の高橋里帆さん(国際教養大学日本語プログラム非常勤講師)は参加者に問いかけ、日本語を母語としない人に伝える際に「気を付けてほしいこと」をいくつか挙げました。

 まず「ママ、いる?」というため口での伝え方

 「これは、相手を子ども扱いしている言い方です。日本語をやさしくすることと、子ども扱いすることは、別です」

 さらに「ワイフ トゥギャザー」といったカタカナ英語

 「英語を交ぜて話すことで通じる場合もありますが、日本で使われているカタカナ言葉は英語にしたとき、全く意味が違うという場合があります。また、ここで一つ考えていただきたいのが、外国人の方は皆さん、英語が話せるのでしょうか? 皆さん英語に言い換えた方が、わかりやすいのでしょうか?」

みんなが英語を話すわけではない

 秋田県内で暮らす「在留外国人」は5745人(2024年末時点)。国別で見るとベトナム出身の人が最も多く、次にフィリピン、中国、インドネシア、韓国・朝鮮――などとなっています。

 「例えばベトナムの方の言語はほぼベトナム語で、英語ではありません。フィリピンの公用語は英語とフィリピノ語なので、皆さんが英語を話せるわけではありません。中国、インドネシア、韓国、ミャンマーも英語が母語の国ではないですよね。『外国人の方だから、英語に翻訳しよう』という固定観念があると思うのですが、外国人にとって英語がわかりやすいわけではないので、まずはやさしい日本語で話しかけてみることを意識してほしいと思います」(高橋さん)

 では、やさしい日本語とはどのようなものでしょうか? 高橋さんは次の2つのポイントを挙げました。

やさしい日本語のポイント

① 難しい言葉を、やさしい表現にかみ砕いて言い換える
② 文を短く切る

 日本語を母語としない人にとっての難しい表現には、例えば「敬語」「方言」「語彙」「擬音と擬態語(オノマトペ)」「文法」などがあるそうです。参加者はこれらの「難しい日本語」を一つ一つかみ砕き、「やさしい日本語」を考えるグループワークに取り組みました。

敬意より「わかりやすさ」を

 まずは「敬語」です。例えば

こちらにお掛けください

 「お掛けくださいという言葉は、日本語を母語としない人にとってはなかなか難しい表現です。例えば『座ってください』と言い換えられますが、これも少し難しい。ですから『座ります』という伝え方がいいかもしれません」と高橋さんは言います。

 「敬語は相手に敬意を伝える言葉なのですが、そもそも言いたい内容が伝わらなければ、意味がありません。ここでは敬意を表すことよりも、わかりやすさを優先していきましょう」

 日本では、敬語を用いて丁寧に伝えることが社会的なマナーとされ、次のような表現もよく使われます。 

お国どちらですか

今、クマが多いのはご存じですか

あちらの方は、どなたですか

 グループワークでは、これらの表現もやさしい日本語に言い換えました。答えは一つとは限らず、参加者はいろいろな角度から表現をかみ砕いていました。

「じゃあこれ投げといて」

 高橋さんは「やさしい日本語に正解はない」と言い、次のように語りました。

 「大切なのは、少しでも『こんなふうに言い換えたら、わかりやすいかな』と考えること。相手に配慮して話すことが大事です。例えば、技能実習生の方が日本に来る前に現地で日本語を勉強し、日本に来てからも学校に行って日本語を勉強して、いざ働こうと会社に入ったとき、職場で『じゃあこれ投げといて』(※秋田の方言で〈投げる〉は〈捨てる〉という意味)と言われたとします。方言を方言と認識していない人は『そんなこともわからないのか』と技能実習生に言ってしまうのです。このようなことが今、たくさん起きているのではないかと思います」

 「日本人が(これ投げといて、と言わずに)『これを捨ててください』と少し言い換えるだけで、嫌な思いをする人が減ります。言い換えるだけで、伝わるコミュニケーションが取れて関係が良くなります。ですから少しでも伝わるように言い換えることを、大事にしていただければと思います」(高橋さん)

「免除」はどう言い換える?

 次に難しいのが「漢語」です。

 高橋さんは、実際に税務署で遭遇した難しい漢語として「免除」を挙げました。

 「税務署の方も(日本語を母語としない人に)どう伝えるか考えて話していましたが、例えば『お金を払わなくてもいいです』がわかりやすいと思います。『免除』はかなりレベルの高い日本語なので、何年も勉強している人でも知らないかもしれません。『免除』という言葉を聞いたとき、日本語を母語としない人はまず頭の中で音を漢字に変換しなければいけませんので、それが難しい。ですから漢語ではなく『払う』という言葉に言い換えた方が伝わりやすいと思います」

 グループワークではほかに、次のような漢語をやさしい日本語に言い換えました。

こちらに押印をおねがいします

その商品は完売いたしました

これは危険です

これは無料です

大切なのは正しさより「伝わること」

 「パンフレット」「キャンセル」といったカタカナ語(外来語)も、日本語を母語としない人たちには難しいということでした。

 例えば「予約をキャンセルされますか?」は「予約を、やめますか?」などと言い換えるとわかりやすくなります。グループワークでは、次のようなカタカナ語をやさしい日本語に言い換えました。

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 また「ニコニコ」「ツルツル」といったオノマトペも難しい表現のひとつです。

 例えば「〇〇さんはニコニコしていますね」はどう言い換えたら伝わりやすいでしょう? 高橋さんは次のように解説します。

 「『〇〇さんは笑っていますね』とか『楽しい、の顔ですね』などがわかりやすいかもしれません。日本人に対して『楽しいの顔』とは言わないかもしれませんが、やさしい日本語では文法の正しさよりも、わかりやすさを優先します。ですからここでは『楽しいの顔』がわかりやすいかと思います」

 グループワークではほかに、次のようなオノマトペをやさしい日本語に言い換えました。

ここをピカピカにしてください

〇〇さんは日本語がペラペラですね

今日はバタバタしています

この道は、冬になるとツルツルになります

 ここで大切なのは「何を伝えたいのか」ということ。「この道は冬になると『ツルツル』になります、と言うことによって一番伝えたいのは『危ないです』ということですよね。このように『何を伝えたいのか』という部分を、しっかり伝えてください」(高橋さん)

「やさしい日本語キャラバン」で配布されたワークシート

一文を長くせず、はっきりと

 難しい表現をやさしく言い換えることのほかに大切なのが、次のポイントです。

やさしい日本語のポイント

・はっきり言う
・最後まで言う(語尾をもごもごしない)
・文を短く切って伝える

 「例えば『ごみは分別し、指定の場所へ朝8時までに出してください』という表現は、言葉自体が難しいだけでなく一つの文にたくさん情報(分別、指定の場所、時間)が入っている点も難しいです。日本語は一つの文を長く続けがちですが、例えば『ごみを分けてください』『ごみを決まった場所に出してください』『朝8時までに出してください』というふうに、一つの文をいくつかに短く分けて話した方が、わかりやすいです」(高橋さん)

 グループワークでは、次のような質問に対して「3つの文で答える」という練習をしました。(読者の皆さんも挑戦してみてください)

Q「処方箋って何ですか?

Q「有給休暇って何ですか?

例えば…

ランドセル」って何ですか?

A「小学生のかばんです」「教科書やノートを入れます」「背中に背負います」
のように3つの文で説明します

やさしさは「相手のことを考えること」

 高橋さんは最後に、参加者にこうアドバイスしました。

 「全てに完璧に対応したやさしい日本語の正解というのはありません。実際に相手と話してみて、難度を上げたり、さらにやさしく言い換えたりと使い分けてみてください。相手のことを考えて配慮した日本語というのが、やさしい日本語です。何がわかりやすいかは相手によって違います。この人にとって、どういう言い方をしたらわかりやすいのだろうと考えて話す。相手に合わせたやさしさ、相手への配慮というものが大事かなと思います。少し言い換えるだけで、お互いに円滑なコミュニケーションが取れます。そういうふうにお互いを思いやっていける社会になったらと思います」(高橋さん)

 当日の様子は、秋田県国際交流協会のサイトで詳しく紹介されています。 

終了後、参加者に配布された「やさしい日本語ハンドブック」

2月4日は五城目町で開催

 「あきた やさしい日本語キャラバン」は2026年2月4日(水)10:30~12:00に秋田県五城目町で開催されます。

 講師は国際教養大学の高橋里帆さん。参加無料、先着40人です。申し込みはこちらのフォームから。締め切りは1月30日となっています。

〈編集後記〉育まれた多文化共生

 秋田県は、日本語を母語としない人向けの日本語教室が各地にあり、20年、30年と長きにわたって続いてきたところもあります。

 これらの日本語教室は、行政主導というより「日本語のことで困っている人の力になれたら」という住民など草の根の行動から生まれたものでした。今回の会場だった能代もそのような地域の一つです。当日は参加者たちの熱から、地域の歴史の積み重ねが伝わってくるようでした。

 昨年7月の参院選では、日本で暮らす「日本人」ではない人々を排除するような政策が、堂々と語られました。1月27日は衆院選の公示日。住民が長い時をかけて培ってきた多文化共生をおびやかしかねない政党、候補者は、誰なのか。厳しい季節に降ってわいた短い選挙戦ですが、目を凝らしたいと思います。

【参考資料】
・秋田県国際交流協会サイト https://www.aiahome.or.jp/
・東京都多文化共生ポータルサイト https://tabunka.tokyo-tsunagari.or.jp/yasanichi/about.html
・秋田県の在留外国人数 https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/4012

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