
岩手県の人たちが「いわてジェンダーかるた」を作りました。
性にまつわる日常の「モヤモヤ」を語り合い、言葉にし、およそ1年がかりで形にしたかるたです。11月12日から販売しています。

読み札の言葉はいずれも、岩手で暮らす人たちから寄せられたものです。例えば
〈おなごの幸せ 結婚だけでないよ〉


「女の人の幸せは結婚だ」と社会から言われ続けてきたけど、そうではない。いろんな生き方があるよ。(詠み人・はなちゃん)
〈どこで産むの? 私の地域には 産科もないのに〉


岩手県では分娩ができる病院がどんどん少なくなっています。子どもを増やしたいなら、まず産む場所から充実させて。(詠み人・まる)
〈聞くたびモヤモヤ ミスさんさ 純情娘〉


若い女性のビジュアルを使って地域をアピールしようとするキャンペーンが残っています。いつまでこのやり方を続けるんでしょうね。(詠み人・めぐ)
〈やんた やんたは やんた〉


「嫌よ嫌よも好きのうち」ではなく、「嫌(やんた)」は「嫌」です。(詠み人・ゆうき)
〈ほんに少ない 女性の「先人」〉


盛岡ゆかりの優れた先人を顕彰する「盛岡市先人記念館」。紹介される先人130人のうち女性はたったの3人…。(詠み人・かっぱ)
ああ、岩手もそうなのか、と仲間を見つけたような感覚になりながら、かるたをめくっていきました。
ジェンダーを考えるきっかけに
かるたを作ったのは、盛岡市でジェンダー平等を目指して活動しているグループ「Compass(コンパス)」。代表の佐藤真子さんは、かるたに着目した理由を次のように話します。
「ジェンダー」と言われてぱっと何か思い浮かぶか人と、そうじゃない人がいると思います。日ごろからジェンダーに関心を持っている人だと、女性議員が少ないとか、男女の賃金格差があるとか、ケア労働の問題などに結び付くけれど、みんながそうして考えて生きているわけではありません。だから、ジェンダーのことを気軽に話せるようなきっかけがないかなと思っていました。
それから個人的な話になるんですけど、私は小さい頃からかるたで遊ぶのがとっても大好きで「ジェンダーのかるたを作ってみたい」と前から思っていたんです。身近な遊びで、私たちが日ごろ感じているモヤモヤを話していくきっかけをつくれるんじゃないかな、というふうに思いました。
制作には「市川房枝女性の政治参画基金」の助成金を活用しました。
語らう時間が盛り上がる
かるたは「岩手の人の声と経験」から作っていきたいと考え、地域でワークショップを開いて「読み札」を募りました。ワークショップは2025年1月から5月にかけ、県内4つの地域で計5回開催。同時にウエブでも「読み札とエピソード」を募集しました。
ワークショップでは4、5人のグループに分かれ、まずはモヤモヤを話し合いました。

「女のくせにとか、女なんだからと言われた経験、自分で『女だから』と思ってしまったこと、それ以外のいろんなモヤモヤを、それぞれ書き出していきました。ここで、すごくたくさんの話が出てきて。書き出したモヤモヤをグループの中でシェアして、話せば話すほど『そのモヤモヤわかる』『私も思ってた』っていうのがどんどん膨らんで、モヤモヤのトークに最も時間を費やしたんじゃないかなと思います」(佐藤さん)
共感の輪がうれしくもあり、悲しくもあり
ワークショップは土地ごとに特色があったそうです。
花巻市ではフェミニズムに関心をもっている20~50代の女性が集まりました。沿岸部の宮古市では「海の女たち」が集い、そこで暮らしているからこそ生まれるエピソードを話してくれました。大船渡市では高校生の参加者が多く「学校のモヤモヤ、学校あるある」のエピソードが出てきました。

「いろんな地域や世代の人とお話をすることができたんですけど、話してみたら、私たち住んでいる場所も世代も違うけど、同じようにモヤモヤしてるよね、これ同じ経験だよねっていう感じで、つながることができました。それはちょっとうれしくもあり、悲しくもあり。世代が違うのに、みんな変わらずこういう経験をしているんだな、というふうに思いました」(佐藤さん)
こうして集まった読み札は、合計163点になりました。

モヤモヤは社会構造を表している
「モヤモヤ」は、何かはっきりしないものや、心にわだかまるものを表す言葉です。
何にモヤモヤしているのか自分でもよくわからない、ということもあれば、本当はモヤモヤする理由をわかっているのに、それを口に出したらどうなるだろうかと考えて、のみ込んでしまうこともあります。
モヤモヤは身近な場所でこそ、声に出しにくいものなのかもしれない。そう思うと一枚一枚のかるたが、ようやく言えた一人一人の「声」のようにも感じられます。

「絵札」は岩手県在住のイラストレーターyamamoto yukiko(やまもと・ゆきこ)さんが描きました。詠み人が直面している状況だけでなく、その人の思いや願いまで伝わってくる絵です。

「結局、モヤモヤを私も感じているし、あなたも感じているし、こうやってみんなが感じているとしたら、それは『あなたの職場のせい』とか『あなたの家族が』ではなくて社会全体の問題だよね、社会構造の問題だよねっていうことを今回、かるたを通して発見できたように思います。それから例えば、給料が安いよねとか、同じ仕事をしているのに女の人の方が賃金が安いよね、と共感し合って盛り上がったとしても『それ全部うちらのせいじゃないよ、だから社会を変えていこう』というと、そこはみんなにとって、まだまだハードルが高い。だったらかるたをツールにして、そのハードルを一緒に越えていけるような働きかけをやっていきたいなというふうにも思っています」(佐藤さん)
いわてジェンダーかるたは1セット3500円(送料は別で600円)。お買い求め、お問い合せはCompassまで。
「モヤモヤ札」と「お守り札」
いわてジェンダーかるたの読み札は、水色の「モヤモヤ札」と、オレンジ色の「お守り札」にわかれています。

「モヤモヤ札は、生活の中で感じるジェンダーにまつわるモヤモヤを表した札です。お守り札は、モヤモヤ札に比べてポジティブな感じで、モヤモヤした時に元気をくれたり、参考になったりする魔法の言葉が書いてあります」(佐藤さん)
楽しみ方いろいろ
かるたに付いている「ガイドブック」では、ジェンダーかるたを使った遊び方を紹介しています。

例えば――
【めくってシェアトーク】
①輪になって座ります。読み札を裏返しにし、1つの山にします。
②一人ずつ順番に1枚をめくり、その札から連想される自分の経験や、札の感想を話します。
【みんなでシェアトーク】
①読み札、イラスト、エピソードのうち、あなたが好きなもの、気になるものを選びましょう。
②ほかの人は、話を聞いて感じたことや似たような経験などを自由に話してみましょう。
【参考資料】
・朝日新聞「サラダは自分でとりわけよう 性差別体験をかるたに、盛岡の市民団体」(2025年4月9日)https://digital.asahi.com/articles/AST47015MT47UJUB007M.html
・岩手日報オンライン「岩手県民の声が札に「いわてジェンダーかるた」 性差のもやもや、方言交えて表現」(2025年11月20日)https://www.iwate-np.co.jp/article/2025/11/20/188439

