雇い止めは「無効」 秋田地裁が仮処分決定 会社側に月給支払い命じる

秋田地方裁判所

 非正規雇用の「嘱託社員」として3年半働いた会社から雇い止めされた秋田市の女性Aさん(50代)が、会社に対して「社員としての地位」と「賃金の支払い」を求めた仮処分申請について、秋田地方裁判所(作原れい子裁判長)は「更新拒絶(雇い止め)は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認めることはできず、無効と言わざるを得ない」とし、Aさんの申し立てをほぼ認める内容の決定をしました。

仮処分申請(仮処分申立)
訴訟の判決が出るまでの間に原告側の権利が侵害されたり、不利益をこうむったりするのを防ぐため、裁判所が通常の訴訟よりも簡易でスピーディな審理を行って必要な措置を命じる制度

「簡単に雇い止めできると、考えてほしくない」

 正社員と同じ業務を、非正規として担ってきたAさん。秋田地裁の決定について、次のようにコメントを寄せました。

 「労働審判の結果からも、仮処分は認められるものと予想しておりましたが、確定されるまでは不安でした。こちらの主張をほぼ全面的に認めていただいた決定を受け、とてもうれしかったです」
 「私は生活のため、働いています。多くの方々もそうだと思います。会社は採用した者を簡単に雇い止めできると、考えてほしくありません」

これまでの経緯
 Aさんは2021年9月、秋田県農協共済株式会社(秋田市)に非正規の「嘱託社員」として就職。3年半勤めましたが、2025年3月に雇い止めを言い渡されました。雇い止めの理由は「人員の整理・見直しが必要」というものでした。
 Aさんの雇用契約は1年更新でしたが、これまで3度更新され、会社側の言葉からも「頑張れば正社員になれる」と期待を抱いていたAさんは4月、「社員としての地位」と「賃金の支払い」を求めて秋田地方裁判所に「労働審判」と「仮処分」を申し立てました。
 このうち労働審判では8月5日、秋田地裁が「社員としての地位を認める」としながらも「雇用契約の合意解約」を提示。解決金としてAさんに400万円を支払うよう会社側に求める審判を言い渡しました。
 しかし、金銭解決ではなくあくまで「復職」を希望するAさんは、解決金を受け取らず、復職を求める民事訴訟を8月12日に秋田地裁に提起しました。

 Aさんの労働審判に関する記事はこちらです。

「契約更新を期待する合理的な理由があった」

 秋田地裁の仮処分決定は10月27日付。Aさんの申し立てをほぼ認める内容でした。

Aさんの申し立て
・社員としての地位(雇用契約上の権利を有する地位)を認めてほしい
・雇い止めにあった2025年4月から判決が確定するまでの間、月給に相当する金額を毎月支払ってほしい

秋田地裁の決定
会社側はAさんに対し、2025年4月から2026年3月31日または1審判決言い渡しの日のいずれか早い日まで、1か月の賃金相当額を毎月支払うこと

 決定によると、秋田地裁は以下のような理由から「Aさんが雇用契約の更新を期待する合理的な理由があった」と認定しました。

Aさんが雇用契約の更新を期待する合理的な理由

・Aさんが担っていた業務は正社員の業務として引き継がれており、正社員の補助的・不随的なものでも一時的・臨時的なものでもなく、基幹的かつ恒常的な業務だった

・契約更新を希望する嘱託職員が更新されなかった例は一度もなく、嘱託職員の雇用契約の更新手続きも形骸化していた

Aさんの雇用契約は雇い止めの前に3回更新され、3年7か月にわたり雇用が継続していた

・2025年も、あたかも契約を更新することを前提とした説明が会社側からAさんになされ、健康診断の予定も立てられていた

解雇回避努力を尽くしたとはいえない

 また、会社がAさんの雇い止めの理由として挙げた「財務状況などによる人員削減の必要性」「Aさんが協調性に欠ける」といった点について、以下のように指摘して会社側の主張を退けました。

・2026年度、2027年度にかけて人件費が増加していくという会社側の試算を直ちに信用することはできない。また直ちに人員を削減する必要があるなどと切迫した財務状況でないことは明らかである

・仮に人員を削減する必要があったとしても、Aさんを雇い止めする以前に社員の希望退職を募るなどの「解雇回避努力」を尽くしたとは認められない

・Aさんの給与は更新ごとに増額していることから、会社側はAさんの就労状況について評価していたといえる。にもかかわらずAさんのみを雇い止めの対象としており、人員整理の人選についても合理的な理由があるとはいえない

 さらに雇い止めを言い渡した経緯についても、Aさんに2025年度の業務内容を説明したり健康診断の日程を伝えたりしていたにもかかわらず、2025年2月26日に突然、雇い止めを宣告したとして「相当な手続を履践して行われたということはできない」と指摘。

 Aさんの雇い止めについて「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認めることはできず、無効と言わざるを得ない」と断じました。

 秋田地裁は、Aさんが「社員としての地位を有する」と認め、会社側に1か月の賃金相当額の支払いを求めました。ただし賃金が支払われる以上、これに加えて「社員としての地位の保全」を認める必要性はない、とも判断しました。

 決定について、代理人弁護士の虻川高範さんは次のようにコメントしています。

代理人弁護士 虻川高範さん
秋田地裁の仮処分決定は、Aさんの主張をほぼ全面的に認めたものと評価できる。しかも、労働契約法19条の該当性や雇い止めの合理的理由の有無などについて、会社側の主張や資料等を詳細に検討した上での判断であるから、本案訴訟でも、この判断は覆ることはないと思われる。したがって、これ以上、Aさんを不安定な状況に置くべきではなく、会社側は直ちに、裁判所の判断を受け入れて、早期に解決するべきである

労働契約法19条
一方的な雇い止めによる不利益から労働者を守ることを目的にした条文。一定の条件を満たす場合、使用者による雇い止めが認められないことを定めています

 秋田県農協共済株式会社は「取材には応じられない」としています。

「人員整理の根拠となった資料を」

 一方、Aさんが復職を求めて会社側を訴えた民事訴訟は10月24日、秋田地裁(作原れい子裁判長)で第1回期日が行われました。

 公判で作原裁判長は、被告(会社側)が人員整理の根拠に挙げた「中期経営計画」について「経営の予測にどの程度、合理性があるのかに(裁判所は)関心を持っている」「中期経営計画の成り立ち、数値設定がどういう根拠に基づくのか説明していただく必要がある」などと述べ、Aさんの雇い止めに至った根拠となる客観的資料の提出を会社側に求めました。

 第2回期日(口頭弁論)は12月8日午前10時から行われます。

県内の「雇い止め」の相談、117件

 秋田労働局によると、2024年度に寄せられた「民事上の個別労働紛争相談」は2184件。このうち雇い止めに関する相談は117件となっています。

秋田労働局「2024年度(令和6年度)個別労働紛争解決制度の施行状況」より抜粋(赤枠は筆者による)

【参考資料】
・労働契約法 https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128
・厚生労働省 労働契約法改正のポイントhttps://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/dl/h240829-01.pdf
・2024年度(令和6年度)個別労働紛争解決制度の施行状況https://jsite.mhlw.go.jp/akita-roudoukyoku/content/contents/002305235.pdf

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