
この居場所を失った人たちは、どこへ行くのだろう。自分が同じ立場になったら「仕方ないことだ」と、私はすんなり受け入れるだろうか。
12月27日、秋田市にある「飯島老人いこいの家」を訪れました。
60歳以上の人が利用できる、高齢者向けの居場所です。秋田市は、ここを2026年度3月末で廃止する方針を示しています。飯島だけではなく、市内にある八橋、浜田、雄和の3か所の「いこいの家」(雄和は「ふれあいプラザ」)も同じく3月末で廃止する方針です。
「施設が古くなった」「維持管理にお金がかかる」「利用者が減っている」といった理由からです。

突然の決定でした。
方針が示されたのは2025年9月。廃止はそのわずか半年後、3月末に予定されていると知った利用者たちは、反対の声を上げ、議会にも陳情しました。「いまは無料で利用できているけれど、有料になったってかまわない」「開ける日数を減らすとか、何とか工夫をして続けてくれないか」。そんな声も上がっています。
いこいの家はどんな場所で、どのような人が利用しているのでしょうかか。ここがなくなったら、その人たちはどうなるのでしょうか。飯島老人いこいの家で、声を聞きました。
「なぐなれば、困るじゃ」
飯島いこいの家には、5人ほどが入浴できるお風呂があります。利用できるのは火、木、土の週3回。無料です。

この風呂を楽しみに通う人たちがおり、年間の利用者は約1万5000人となっています。
「困るじゃ。なんと困る」。通って30年になるという95歳の女性は、ここがなくなると「とても困る」と話します。老人いこいの家は60歳になると利用できるので、女性はその年になるのを待って、通い始めました。
週3回のお風呂の日、一緒に暮らす娘の送迎で女性はやって来ます。午前中は大広間でご飯を食べながら、ここで知り合った利用者とおしゃべりをして過ごし、午後からお風呂に入ります。

「みんなとここでご飯食べて、お話するじゃ、そういうお話がやっぱりためになる。ほうほうと思って。こさ来ると、しゃべるべ。ありがたいことに」
いこいの家が廃止になるという話は、9月に新聞報道で知りました。女性に反対かどうか尋ねると「反対に決まってるじゃ」と答えました。
「年いけば、どごさ行ぐって。娘がいだって、毎日家にいだって、しまいに喧嘩するだけだ。何でつぶすんだ?こご。あんだ、分がらね?」。女性が廃止の理由を私に尋ねました。市が挙げている「維持管理のお金がかかる」などの理由を伝えると、女性は「私たちもお金だったらなんぼも出せるじゃ。どこさ行ったって500円ぐらい取られるって、安い風呂行ったって。んだべ? そういうのも考えればいいじゃ」と有料化を提案しました。
「何のために生きてるんだかと思う」
77歳の女性は、今年に入って老人いこいの家のことを知りました。車を持たないので、友人が一緒に車で連れてきてくれます。
「私みたいな一人暮らしの人は、ここに来てみんなと話せるし、いろんな情報も得られるし。でないと家に一人でいて、一日中、誰とも話しないでテレビ見て、ほんと寝る時なんかはやっぱり、何のために生きてるんだかと思うくらい。だからここに来て話した日って、すごく気持ちよく寝れるっていうか。私もまず、こうやって(友達が)連れてきてくれるから。この場所を知らないのは、もったいないなと思うの」

友人の78歳の女性が言います。
「老人のために残してほしい。みんな、老人になるんだから。この場所を残して、とは言わない。でも4か所のうち1か所でもいいから、残してほしい」
あまりにも突然すぎた
ここのお風呂で知り合ったという、2人の女性も話を聞かせてくれました。
78歳の女性は、飯島老人いこいの家に18年、通っています。
「ここに来ると、コミュニケーションをすごくとれるんですよ。いま私一人暮らしで、友達が入院したから行くところがないんですよ。そうすれば本当に、ここに来るしかなくて――職場は、まだ働いてるんですけども、介護士で。お父さんのことも15年くらい介護したんですけど、ここを60歳の時に知って、お父さんもまだ元気だったので、その時からここにお世話になって」。とても大切な場所なのだと語ります。

現在は60歳以上の人しか利用できない「老人いこいの家」を、幅広い世代が使える「いこいの家」にしたらいいのでは、とこの女性は提案します。
「ここは、避難所にもなってるんですよ、津波の。お風呂もあるし、畳もあるし、ここに来ると、全部そろってるわけでしょう。ここの場所は、潰すべきものではないと思います。もし潰すお金があったらそれで、修繕してほしいんです」

「例えば、もうボイラーが壊れたので、壊れた時点で終わりますとかっていうんであれば、私たちも納得します。だけどもそういうこともなく、バンといきなり、やめますって言われて、はい、そうですかとは私たちも言えないから、嘆願書を出して。若い人たちも書いてくれたんですよ。なんとか存続できる方法を考えてから、やめるってことにしてくれればいいけど、まずやめるってことがバンと出てくるのは、やっぱり間違ってると思うんですよ。ふつうのお風呂に行けば700円、800円かかります。ここは今、ただで入れてもらっているので、いくらかでも出しますよ。やっぱりやめ時も、いろんなこともあるけれども、落としどころっていうのはあると思うんですよ。頭の中だけで政治をしてほしくない」
コロナ解雇で見つけた居場所
65歳の女性は、職を失って節約をしなければならないとき、無料で入浴や休憩ができる老人いこいの家に通うようになりました。
「5年前にコロナの影響で仕事がなくなったんです。(事業所が)撤退してしまったから、私だけじゃなく、従業員みんな一斉になくなってしまった。だから、少しでも節約したくて。国保もかかるし、いくら雇用保険をもらっていると言ったって先が不安だし、あんまりランチにも行かなかったんです。それで、暑い時にちょっと涼めるところがあればいいなと思って、友達と食べ物持参でコミュニティセンターに行って、ちょっと涼んでこようかと思ったら、予約してなければ、だめだと言われてしまったんです」
その時、ふと近所のおばあちゃんが「いこいの家」の話をしていたことを思い出しました。「無料で休めるよって。私も60歳を過ぎたから、一人で行ってみようかなって」。自由に出入りができる気楽さも心地よく、週2、3回、通うようになりました。この場所でだけ一緒に過ごす、年上の友達もできました。

「60歳になったばっかりの友達に、この場所を教えたら、知らなかったって。暑い時、ここで麦茶とお弁当を広げて食べようって言ったら、すごいここ涼しいねって、緑もいっぱいだし休めるねって。友達といいところを見つけられてよかったねって話していたら、こういうことになって」――。ここをなくさないでほしい、と女性は繰り返しました。
人口減少がもたらす税収減
この2日前の12月25日、飯島老人いこいの家で、秋田市による利用者説明会がありました。秋に続く2度目の説明会です。会場には、70人ほどの利用者が集まりました。

この日配布された資料には「廃止を見据え」とあり、その箇所には下線が引かれていました。

秋田市の担当者はこれまでの経緯を丁寧に説明しました。ただ、廃止という軸は揺るがないのだということが、伝わってきました。
利用者から次々と反対の声が上がる中、秋田市の福祉保健部次長が、なぜ廃止しなければならないのかをあらためて説明しました。
部次長はまず、秋田市の人口と税収について、こう話しました。
秋田市福祉保健部次長
秋田市の現状の一つとして、市の人口はこの11月30日時点で30万人を割り、29万126人という状況になっております。30万人を切るということになると、少なくとも企業からの事業所税というものがなくなっていきます。そうしますと、来年度、令和8年度の影響としては約4億円ぐらい減収になるというのが見込まれている状況です。これが令和9年度になりますと、約15億円がなくなるという見込みとなっております。他にも、国から来る地方交付税の交付金なども減収になるという見込みがされている状況です。今、この少子高齢化、人口減少という影響が、こういう財政面のところでも出てきているということを、ご理解いただければという思いでございます。これを踏まえて、これからの事業のあり方だとか、施設の保有量のあり方だとかを、どうしても見直していかなければだめな状況です。
いこいの家の廃止方針については、次のように語りました。
秋田市福祉保健部次長
確かにちょっと少し急いでというか、皆さんの方にも唐突にお知らせしてしまったということもございます。この11月定例議会の中で、議員の方々からも結論ありきでの進め方について大変厳しい意見をいただいたところでございます。
この定例会が終わった後に、市長から定例記者会見ということでコメントがありました。その中で市長は「何かを止める、いこいの家に限らずですね、やめるという判断というのは、それは市がしたいわけではない」ということを言っております。ただ、財政状況のこういう見通しがある中で、全部を維持していくことができない状況にあるということであります。これがまぎれもない事実なんだということでございました。
やめぎわ、やめ方については、考えていかなきゃだめだという、そういうふうな発言もいただきました。(利用者からの)要望の一つに指定管理期間(2027年度)までだけでもやっていただけないかということもございましたので、そういう意見も一つの案として入れながら、市長、副市長に説明し、この後の最終的な結論をいただきたいというふうに考えているところでございます。
秋田市が議会に配布した資料によると、老人いこいの家の経費は年間約1500万円前後となっています。

「代替施設をちゃんと提供してほしい」
最後に、八橋老人いこいの家を利用している男性が、こう意見を述べました。
「廃止になる施設がこれから出てくるわけですから、その施設の利用者の皆さんの不安を解消できるように、代わりに利用できる施設について丁寧な案内と説明でなくて、ちゃんと提供してほしい。使っている利用者が、ここなら安心して使えますと、お風呂を使っている人がいれば、こういう施設が使えますというふうなことを提供するところまでやって、初めて代替施設になるんじゃないでしょうか」

縮小していく秋田で
縮小していく秋田で、私たちはこのような場面にこれからますます、直面することになるのだと思います。
秋田市福祉保健部次長が語った「全部を維持していくことができない状況にあるという、まぎれもない事実」の中で、どこを見直していくのか。
多くの人にとって「廃止でも仕方がない」という結論になる施設や事業であっても、別の誰かにとっては、かけがえのない大切な居場所かもしれません。ここで暮らす誰もが、怖がらずにもっと自由に語って、かき混ぜていいのだと思います。どこにお金をかけ、どこを削るのか。


