この記事のタイトルをどうするかで少し、悩みました。
精神障害があり、生活保護を利用している当事者の一人が話した「1万6620円というお金の重さ」をタイトルにするか。それとも「カピバラの湯っこと市長の謝罪」にするか。「カピバラの湯っこと市長の謝罪」のほうがもしかしたら読まれるのかもしれません。
前回の記事でも書きましたが、この問題は複雑で分かりにくい制度のもとで起きています。複雑なので、何が問題なのかも分かりにくい。すると、声を上げることのできない人たちの生活がひっそりと追い詰められていた、という事態が起こり得ます。メディアに報じられず、ほとんど関心も持たれないままに。
タイトルはやはり「1万6620円の重み」にしました。
これまでの経緯 秋田市は1995年から28年にわたり、精神障害者保健福祉手帳(精神障害者手帳)の2級以上をもつ生活保護利用世帯に障害者加算を過大に支給していた。2023年5月に会計検査院の指摘で発覚した。市が11月27日に発表した内容によると、該当世帯は記録のある過去5年だけで117世帯120人、5年分の過支給額は約8100万円に上る。秋田市は過去5年分の過大支給を、生活保護法第63条(費用返還義務)を根拠に、当事者世帯に返すよう求めている。返還額(控除前の金額)は最も多い世帯で約149万円。
こちらの記事で触れた問題について、生活保護世帯を支援している団体「秋田生活と健康を守る会」(後藤和夫会長)は22日、秋田市の穂積志市長あてに緊急要請書を提出しました。
要請のポイントは4つです。
①ミスの再調査
秋田市は、障害者加算をもらえるAさんの加算を誤って削り、返済額(過大支給なので返してもらうということ)も伝えていました。守る会は、Aさんの削除は間違いだったと指摘し、同じように誤って障害者加算を削除された当事者がいないか再調査し、Aさんにはさかのぼって加算を支給するよう求めました。
②8100万円という金額の検証
こちらの記事で触れている約8100万円という過大支給の金額(120人の当事者にとってみれば返済額)ついても、検証することを求めました。
8100万円という額は、120人の当事者が過去5年間に受け取った障害者加算をほぼ全て「返すべきもの」と考えて計算した額です。
しかしこの8100万円の中には「もし、秋田市がミスをしていなければ当事者が受け取れていたはずの一時的な加算(暫定加算)」も入っています。言ってみれば「秋田市がミスをしたのですが正当な金額はちょっと分からないので、とりあえず多めに返してください」ということだと思います。
➂私用スマホでの撮影を改めてほしい
今回の問題への対応として、秋田市は当事者宅を訪れて家具家電などの現物や領収書を撮影しています。「返済額をできるだけ減らす」という当事者救済のためです。
しかしその中で、私用のスマホを使って通帳履歴なども撮影している事例があると判明しました。個人情報の流出も心配であり、守る会はこのような方法を改めてほしいと求めました。
当事者の一人が言っていました。「自分は、税金のお世話になっています。おかしいと思っても、それを言いづらい。だから自分は、どこまでも、何をされても許さなければいけないということでしょうか」。このような思いの当事者がいることも、知ってほしいと思います。
④返済は求めるべきではない
これまで支援団体がずっと訴えてきたことですが、そもそも、何の責めもない当事者世帯に最低生活費を削ってまで返済(返還)を求めること自体をやめるべきだと、改めて求めました。
分割返済も含め返還処分を取り消す判決が複数出ています。
また市長や副市長らの減給処分で対応している自治体もあります。
https://www.higashiaichi.co.jp/news/detail/1838
「1万6620円で2週間、生活できます」
要請書を手渡した後、守る会は記者会見をしました。この中で、ある当事者がこう語りました。
「私が削られた1万6620円という額は、うまくいけば10日から2週間、生活できるお金です」
精神障害があって生活保護を利用している人にとっての1万6620円と、そうではない人にとっての1万6620円は、まったく重みが違います。「返せばいい」と簡単に言えるものではないのです。
HPに残っていない市長のお詫び文
ところで、要請を手渡す場には保護課と広聴広報課の担当者、当事者を支援している虻川高範弁護士が同席していました。虻川弁護士が秋田市側に尋ねました。
「秋田市長のお詫び文というのが、昨年(2023年)10月に記者クラブに提供されています。記者クラブへの発表資料は市のホームページに掲載されると思うのですが、いくら探しても市長のお詫び文の記載が、見当たらないのですが」
今回のミスに対して、穂積市長は2023年10月に「当事者に寄り添った対応をしていく」という主旨のお詫び文を記者発表しました。しかしその事実が、秋田市のホームページから抜け落ちているということです。秋田市のホームページを検索してみました。
確かに、2023年10月の「記者クラブ配布資料」一覧に、市長のお詫び文はありません。
一方、11月の「記者クラブ配布資料」一覧には、保護課が発表した「生活保護費における障害者加算の一部認定誤りについて」がありました。
なぜ、市長のコメントは秋田市のホームページにアップされていないのでしょう。広聴広報課は「掲載のタイミングがずれて載せられなかったのかもしれない」といった説明をしていました。
10月の「記者クラブ配布資料」一覧の中には〈動物園の「カピバラの湯っこ」を始めます〉といった情報が載っていました。
これらの情報と、生活費を削られる生活保護利用者への市長の言葉と、どちらが重いでしょうか。
記者発表資料というのは秋田市政記者クラブに所属する記者でなければ見られません。それを報じない報道機関があれば「なかったこと」になります。市長の言葉を記録に残す意味でも、市のホームページにPDFファイルで載せた方がよいと思います。